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ナイトホークス

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そこは強い硫黄の臭いのする古い宿。目的は湯治のようなもので、素泊まりだから只管に読書と温泉と転寝を繰り返すつもりだった。僕はそのはじめて訪れる温泉に推理小説を持って行った。玉井さんに薦めてもらったマイクル・コナリーの"ナイトホークス"、まだ上巻の触りしか読んでいなかった。
その宿の風呂へのアプローチは変わっていて、長いトンネルを潜り、更に長い階段を下りた所に源泉掛け流しの硫黄泉の風呂がある。昼過ぎに宿に着き、まずは直ぐ風呂に入った。階段を上り部屋に戻るとどっと疲れが出た。布団に押し付けられるように眠りに落ちたが、目が覚めてもまだ外には昼の明るさが少しだけ残っていた。僕はまたナイトホークスを読み、外がすっかり暗くなってから風呂に向かった。そして明け方までそれを繰り返した。

20071030100.jpgナイトホークスはベトナム戦争でトンネル工作員だった主人公の刑事ハリー・ボッシュを中心に、偶然向かった事件現場でのトンネル時代の仲間の死から話が広がっていく。邦題は"ナイトホークス"だけれど原題は"ブラックエコー"、それは孤独と恐怖の溢れる迷路のようなトンネルの暗闇の中で聞こえるのはこだまする自分の息遣いばかり、それを彼らがそう呼んだのだという。本の背表紙にあった原題の書かれたデザインは、"ナイトホークス"の表紙よりもベトナムのトンネルネズミを想わせる。僕は、本を閉じる時は必ず背表紙が上に来るように本を閉じた。そして何度も温泉に入りに行った。長く暗いトンネルを潜り階段を下りるとき、僕はまだ本の中にいるような気がした。それがとても楽しかった。

幸いにも僕は遅読なものでこの宿で読了することが出来なかった。本当は自分の店のカウンターでエドワード・ホッパーの"ナイトホークス"しながら読む筈だったのを思い出し、下巻の中盤以降はコルトレーンを聞きながら仕事上がりにナイトホークスしたのでした。あー、たのしかったぁ。

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Comment(6)

本を読みながらサイコロステーキを口に運ぶのも、湯治場らしく調理場でおばさんたちと話をしながら飯をつくるのもいい。
二三日間、沈没しつづけてマイクル・コナリーに耽り、ときどき双眼鏡で鳥をながめたり、ある日「やあ、野沢さん」と言いながら殻々のドアを開いて、うまいものをたっぷり。だが、ここでアルコールを持ち出せないところが情けないのだが、あまりにもナイトホークスを読むのにふさわしい宿ですね。今頃のトンネルは、さぞかし寒いんでしょうね。風呂場にも本をつれていきたい。
で、音楽は、やはりアート・ペッパーをつれて行きましたか?
もちろん、色々と苦労もあるでしょうが、こういうところが近くにある野沢さんが、ほんとうにうらやましい。

OIL:

玉井さん、こんにちは。ありがとうございます。
アート・ペッパーはiPodに入れて行きました。長時間のイヤホンが苦手なもので、たまにおやつをつまむようにして鞄のポケットから取り出しました。
ヒエロニムス・ボッシュやエドワード・ホッパー。アート・ペッパーやジョン・コルトレーン、ウェイン・ショターなどなど馴染みのある顔ぶれに嬉しくなったし、その場の空気を想像しやすさせてくれました。
僕は食いしん坊(飲ん兵衛かな)だからひとつ気になったのが"オールドニック"というボッシュが自宅で飲んでいたビールです。テラス下に落ちた金色のラベルと聞いてどんなビールなのか飲んでみたくなりました。玉井さんもひと口くらいならと思いケース買いするつもりで探してみたんですがどこも在庫切れで、仕事先の問屋さんに聞いたらもう作っていないんだそうです。残念です。どこかの酒屋さんで埃をかむったオールドニックを見つけたら賞味期限切れでも良いから飲んでみたいと思っています。
http://www.kanshin.com/keyword/1147790/comment

このビールの描写、ぼくはまったく気づきませんでした。こまったものですね、飲まないやつは。関心空間から入ってYoung's Beer のサイトを見ました。
http://www.youngs.co.uk/

ぼくがビールが好きなら、こんどロンドンにいったらこのパブに行くことを、心にかたく誓ったことでしょう。
Young'sの歴史というのを読むと、2006年に「新時代」に入り合併によってWells & Youg'sという新しいビール会社をつくった。そのときにWandsworthというところのビール工場を閉鎖、パブ部門は別の会社として経営することになったという話ですね。そのときに、OLd Nickという銘柄はなくなっちゃったんでしょう、残念ですね。ロンドンのYoung'sのパブに行って「Old Nick」を飲みたくて日本から来たんだよ」なんて言ったら、きっと、ホコリのつもった瓶を出してきてくれるでしょう。そのうち、野澤さんやってみてください。開高健の書いたものに、古いロマネコンティを恭しく開けたら、とても飲めた代物じゃなくなっていたという話がありましたね、ビールでもあるし、はやいところ試してください。

そういえば、「二心ある大川」の主人公の名前はニックなのでしたね。「ヘミングウェイ短編集」はamazonから取り寄せ中でまだ読んでいないのですが、初期短編の主人公は、多くが「ニック・なんとか」なのだと、どこかに書いてありました。きっと、著者自身なのでしょう。

OIL:

ニックがたくさん出てきたぞ。
僕がナイトホークスを読みながらボッシュの飲んでいるビールを想像した時のラベルはサンタクロースでした。"オールド・ニック"という名前から"セント・ニック"を想像して、あまりピンとこない組み合わせだな、と思っていたんです。でもボッシュの飲むニックのラベルを見ると聖人じゃなくて悪魔だったから、少し納得しました。そうか、イギリスに行かなくちゃですね。
ヘミングウェイのニックッシリーズもニコラスじゃなさそうですが雪が降ったら今度は薪ストーブの前で読んでみようと思います。

Jun:

今晩はJunです。エントリーがずいん深く掘り下がった所で私の書き込み・・・少々恐縮です。
とても私の私的な経験と見解なエントリーですがお許しください!
パブは地元のブルワリーをサプライヤーとしてその名を看板に掲げるため、私の住む地域(イギリス北西部)では、ボディントンやロビンソン、ホルツなどなどの名があがります。そのパブのなかでも扱われるビールの種類は様々ですが嗜好も言葉も南と北では実際かなり違います(東京と大阪のように!です)ですので、マンチェスターの私はあくまでも北部の生活基盤です。
Young’sのWells Bombardieでしたら確かここでもパブでタップからサーブしてもらえました。アイリッシュのコミュニティーも確立されているのでギネスはもちろんですが、マンチェスターの中心ではボトルでヨーロッパのビールをボトルで出すのもちょっとトレンドです。ですがバーレーワインタイプのビールは見かけたことがないかもしれません。先日は確かスーパーで Young’sのダブルチョコレート スタウトというボトルを見かけたのでいただいてみました。カカオっぽいほのかなビターなスイートな後味が私は好きでした。息子は羊のマークが好きでボトルのトップを捨ててくれるなと言っておりました。イギリスにお越しの際は私もお供させていただきたく、ぜひぜひお声をかけてくださいね!!

OIL:

Junさん、ありがとうございますm(_ _)m
とても解り易く勉強になるコメントに、心から感謝しております。
そういえば以前、店の看板を作る時にパブ看板を参考にしようと本を読んだんですが、その本にも、店の屋号よりもビールの名前のほうが大きく書かれた看板が沢山ありました。なるほど、納得です。
ママは中身、ジョー君がトップ、2人とも気に入るビールでもあるんですね(^^;
カカオ風味のビール、いいですね!よーし、今夜はうちもチョコレートモルトを使ったビールで晩酌だぁ!まだいつになるか分かりませんが是非そちらの地元のビールでご一緒させてくださいませm(_ _)m

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2007年11月19日 18:38に投稿されたエントリーのページです。

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