鳩はどうやらうちの周りを気に入っていたらしい。
朝起きて玄関を開けるとアプローチをうろついていたり、部屋の窓から緑化屋根を見ると来春に芽吹く筈の種をしきりに食べていたりする。のたのた歩く姿は微笑ましくもあるのだが、その糞害には笑えないものもあった。玄関前は鳩の糞だらけになり、うちの車の屋根にもご丁寧に犯人の足跡を残した上で糞も残した。日増しに図々しくなる鳩を少し疎ましく感じながらも、ほとんど飛ばないペンギンのような鳩を楽しく観察しながら3日が過ぎた。
今朝、僕は38.8度の熱があったので病院に行くため車に乗った。少し肌寒い空気のなか家の前の坂道を200mくらい下った道路際で車に轢かれた鳩がいた。僕はすぐにあの鳩だと思った。熱のせいか、僕はそれが夢のなかの出来事のように感じていた。鳩が家の周りで遊んでいたこと自体が夢だったように思えていた。
処方された薬で少し重力を取り戻した僕は、朝通った家につづく坂道を戻った。
少し雨に濡れた道の脇にまだ、あの轢かれた鳩がいた。やはり夢ではなかった。