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シリアの花嫁

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エラン・リクリス監督「シリアの花嫁」を見た。
舞台はゴラン高原のマジュダルシャムス村。ゴラン高原は、西にイスラエル、東にシリア、北にレバノン、南にヨルダンと接しており、もとはシリアの領土だったのを1967年の第三次中東戦争によりイスラエルに不当に占拠されたのだそうだ。ゴラン高原の住人はもちろんシリア人で、イスラム教の少数派であるドゥルーズ派。彼らはゴラン高原はシリアであり、自分達はシリア人であることを主張し、民族の誇りから占領下に置かれてもイスラム国籍を取得することを拒んだことから国籍を失い、現在も無国籍の状態にあるという。
ドゥルーズ派シリア人は民族間で結婚をする習わしがあるという。しかし、ゴラン高原に住む無国籍の人間が、境界を越えシリアに住む同族と結婚しシリア国籍を取得すると、もうイスラエル占領下のゴラン高原には戻っては来れない。民族の誇りと、イスラエルとシリアをいう、国交が無くお互いの国を承認しようとしない政治的な問題が絡んでいる。同族というだけで話もしたことの無い相手と結婚する花嫁はその結婚が幸せであろうとなかろうと、家族との永遠の別れをすることになる。イスラエルとシリアが国交を回復しない限りは。

と、まぁ、問題は複雑で重いのだけど、ゴラン高原の山の斜面に立つマジュダルシャムス村の眺めは美しく、登場人物は愛情込めて描かれている温かみのある映画で、見終わった今、主人公である姉妹の笑顔が記憶に残っている。
映画を見ていると、僕の視点は徐々に政治的な背景よりも普遍的な人間のテーマに移行していった。国と国の間だけに境界があるんじゃない。伝統、宗教、世代....いろんな所に理解し合い難い問題があり、そこにも境界があるということなんだろう。
シリア人として積極的にデモに参加する父。ロシア人女性と結婚し家を離れた長男。父は長男を結婚式に迎え入れたいのに異なる宗教の女性と結婚した長男を村の長老達は許そうとしない。そんな家父長制の強い地域で花嫁の姉は夫の反対を押し切り娘を大学に進めようとし、自分も大学に勤めようとしている。恋愛に仕事に自由な弟。子供達と長男の妻と孫にも境界なく愛情を示す母。不安に満ちた花嫁。みんながシリアとの国境に集まり、シリア側では花婿とその家族、先にシリアに住むもう1人の弟が待ち構え、ある政治的トラブルを含めたラストシーンがはじまる。
この映画の中で希望を失わないのは女性であり、それが美しく描かれていた。花嫁の姉・アマルを演じたヒアム・アッバスが魅力的だった。


シリアの花嫁・公式サイト
http://www.bitters.co.jp/hanayome/


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2010年03月10日 08:34に投稿されたエントリーのページです。

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