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プライス夫妻の若冲コレクションと江戸絵画からミニマル・ポストミニマル

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はじめましての福島県立美術館です。
東北地方の大地震とその直後の町を飲み込む津波の様子、そして原発事故をアメリカからテレビで見られていたジョー&悦子・プライス夫妻が、避難所で過ごす人々に対して、美しいものを見てもらいたい、という気持ちから発した今回の展覧会。今の伊藤若冲ブームを作ったともいえるプライス夫妻の所有する若冲コレクションは個人所有としては世界最多なのだそうだ。そんな夫妻の江戸絵画コレクション100点が、岩手、仙台、福島の3カ所を巡回するというのを知り、うちから最寄りの福島(と、いってもそれなりに遠いけど)に来たら、ぜひ見に行こうと思っていました。
夏休みは美術館の駐車場が連日満車になるほどの人出だったそうだ。会場にいた地元のおじさんの話では、ここにこんなに人が来るのは初めてなんじゃないか、とのこと。この日は9月に入った平日の午後3時、荒天ということもあってか、賑やかではあるけど都内のような混雑はありませんでした。

江戸時代の絵画は海外でもよく見る機会がある。
大きな美術館の日本美術の部屋やパリのピナコテークでの企画展などなど。今回の展示は個人の所有という条件の違いを感じさせないコレクションの多さに驚くところでもある。
僕は日本人だけどこの平安から江戸にかけての文化には距離を感じることがある。まるで似た所を持った近所の国か、たまたま僕が知らないだけのパラレルワールドかのように。
日本以外の同時期の絵画の場合は描かれているモチーフや視点からして違うから異国の文化だとすぐに感じるんだけど、日本の美術の場合は殆どが見たことのある鳥や植物、建物の形なので抵抗無く作品世界に入ることはできる。しかし、服装や表情が違うのに加え、僕には書かれている文字が読めない、ということが大きいような気がする。
明治の言文一致以降、文語と口語が一緒になり、このように文章が口語化されたことで文語文を書くことをしなくなった。そして出来なくなり読めなくなった。もちろん、僕が古典国語の授業を怠けていたこともあるけど日常使わなければそんなものかもしれない。今回の福島県立の展示会場で見た人たちの多くも、僕と同じように作品の中に書かれた毛筆の狂歌を読むのではなく、解説に書かれた楷書の文章を読んでいる。
僕の場合、江戸時代の文化を知るときに美術作品から得ることが多い。海外流出も多いからその場は国内とは限らない。外国人が江戸絵画を見るのと、ひょっとしたらそれほど変わらない立場にいるのかもしれない。そうなると、外国人よりも知ってるつもり、という勘違いが邪魔にもなる。時代劇や映画のタイムトリップものみたいに、ひょっとしたら江戸に行っても喋り言葉は理解できるのかもしれないけど、活字のない時代の毛筆で書かれた文章を理解する自信はない。文章から得るには解説が必要になる。

江戸が終わり近代化と共に日本の絵画は西洋絵画風の、いわゆる洋画が増える。
美術学校でも日本画と区別した油絵のコースができる。そして学生数は日本画を上回る。それは今にも続き、僕もその中の1人だった。
今年3月、宇都宮美術館でミニマル・ポストミニマル展を見た。
この時、とても強く感じたことが、この展示室の雰囲気はとてもアジアンだし、これは日本だ、ということ。1970年頃を起点にした流れとして様々な年代で現代でも制作されている作家の作品群だった。僕が生まれて育った時代だからそう感じるだけかもしれない。
戦後の日本の洋画と呼ばれた油絵は、欧米の油絵と比べると些か見劣りする感じが僕にはある。
そんな中で、作家個人のオリジナリティを求め作られた作品に、欧米の美術にはないアジアを感じる空気が会場に満ちていた。そして堀 浩哉氏の震災のあとの不安を感じる構図と色、絵画が社会を反映した作品を見て、その作品のもつ力強さを感じたとき、僕はそこにカタルシスのようなものを感じた。僕が生活の中で感じたものを、質の高い絵画として目にした時、僕はその重苦しさから一時解放されたように思った。現代を作品に反映させた質の高い作品というのは、いままでの美術史もそうであったように、この作品もその中に加えるべきなのだろうと思った。
先日、この展覧会の記録集が完成までもう少し掛かるという知らせが宇都宮美術館からあった。正直、半年前に名前を書いたのも忘れかけていたのだけど、手にするのが楽しみだ。

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話が大きく逸れてしまったけれど、福島県立美術館って大きかった。

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2013年09月16日 15:24に投稿されたエントリーのページです。

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