内鍵ウォーク (KARAKARA-FACTORY)

薄ら湿った部屋の中で目が覚めた。いつもの寝室。布団越しの窓から外を見ると靄が掛かっている。時計は10時を回ったところ。早朝でもないのに変な天気だ。こんな日には何時もは釣れない大きな魚が釣れたりして....そう思ったらそわそわしだした。仕事の前に、ちょと那珂川に入ってみよう。
川に入って1時間くらいが過ぎた。靄は晴れて陽射しは強く、単に蒸し暑い午後になっていた。渇水していて魚も釣れないし、もう上がろう。車まで戻りベストを脱いだ。背中が少し涼しくなった。ハッチバックからベストを投げ入れた。この日、湿度は95％。もうウェーダーも脱いで運転席のサンダルに履き替えよう。ウェーダーとは胸まであるゴム長靴、水中では熱くは無いが陸上では流石に熱い。運転席のドアノブに手を伸ばした。ドアが開かない。慌ててハッチバックに目を戻す。さっき聞いたバタンという音が耳に残っている。やっちまった。鍵はあのベストの中だ。
暑さでいろんなものが暈けてきた。少し離れたところから川の音だけが耳に届いた。

さーて、どうしようか。
ウェーダーに付いているポケットに手を入れたら、小銭入れとデジタルカメラが入っていた。
ラッキー♪ これで橋を渡った所の自販機で冷たい水が買える。
５００mlのクリスタルカイザーを買った。一気に半分くらいを飲んだ。すごく冷たい。口と喉が気持ち良く、飲んだ後に自分の口から涼しい息が出てくるのが嬉しかった。
さて次だ。自販機の近くに電話ボックスがある。この小銭で家に電話してみよう。扉を開けると虻が２匹飛んでいた。電話機の上や床には小さな虫の死骸が１cmくらい積もっていた。気が進まなかったけど、受話器だけ取り外に出し、手を伸ばしてボタンを押した。
やはり誰も出なかった。僕らは電話のセールスが大嫌いだから店の営業時間以外はいつも留守電にしていて呼び出し音もならないようにしているんだった。厨房長は家にいる筈だけど、きっと電話には気が付かないだろう。

仕方がない、歩いて帰ろう。

家はあの山の林を超えた所にある。デジタルカメラもあるから写真でも撮りながらのんびり帰ろう。