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魚を捨てることがリリースじゃない

MyPlaceの「内澤旬子と3匹の豚」という興味深いエントリーのコメント欄で魚のリリースに関する話があった。どうも僕が考えるリリースと他の人達のいうリリースが同じものとは思えない。僕はリリースもするフライフィッシャーマンとして自分なりの考えを書かなきゃいけないと思った。
まぁ、そもそもが魚釣りの話だ。これは子供のもつ残酷さを併せ持つ「遊び」だから、動物愛護的には魚釣り自体が否定されて、食べればOKという結果になるのは当然だけど、リリースってそんな簡単なもんじゃないだよなぁ、とフライフィッシャーマンは思うのだ。

地元のおじさんの話では、うちの近所の川では、随分前は渓流に魚釣りに行けば一日に30〜50匹の魚が釣れたという。リリースなんていう習慣のない時代だから、みんなそれを持って帰り食べ切れない分は近所に配ったりしたそうだ。何年かすると一日に釣れて20匹、また何年かすると一日釣れて5匹と釣れる数が減って来た。これじゃ、川から魚がいなくなっちゃうから釣り人がお金を出し合ったりして漁協も魚を放流し、漁協の規則として20cm以内の稚魚を釣っちゃった場合は逃がしてやろうと決まった。フライ発祥の地イギリスでも1ポンド以下の魚はリリースしなければならないという。逆に、1ポンド以上の魚のリリースは禁止されている。そしてキープできる数が決まっているので、それ以上釣る事は出来ない。あちらの川は個人が所有していて全ての区間にリバーキーパーがいて許可無しには川に入れないから環境を守り易いんだと思う。もし、うちの近所の川で本数の制限をしたとしても、魚を大量に持って帰るのは「釣り」ではなく「突き」、食べるのを目的とした密猟でモリで突いている人達だから、はじめから違法行為なので制限を守るとも思えません。

キャッチ&リリースは魚を針に掛ける以上に技術と経験が必要な行為だと思います。
釣った魚を水に戻すことだけがリリースじゃない。魚を傷つけない素材で作られたランディングネット針外し、「かえし」のないなど、リリース出来るようにキャッチするための道具が必要です。技術がかなり上達すれば必要ないものもあるのかもしれないけど、それが初心者に誤解を与えているのかもしれない。
リリースするには上手にネットに取り込み、水中で魚に触れず針を外さなければならない(場合によってはネットも使わず水中で寄せて直接針外しを使うことも)。上手にキャッチしリリースすればその後の生存率は70%〜90%、あるサイトでは100%とも言われますが、乾いた素手で魚を触ったり、長時間水から出したりすれば、生存率は0%に近くなります。これは聞いた話ですが、水族館でも魚の移動に網ではなく釣りを使うところがあるのは、その方がダメージが少ないからとも聞きます。
魚を釣ってからの事だから、上手くキャッチしリリースする技術を身につけるには経験が必要だと思います。上手く出来ない人が痛めつけた魚を川に戻すのは捨てたことと同じ、ReleaseじゃなくてDiscardです。魚釣りが好きなら稚魚が釣れてしまった時に上手にリリース出来るように道具を用意し、技術を磨く必要があると思います。僕自身、技術を高めようと努力していきたいと思います。

管理釣り場は、塩焼きスペースのある四角い放流釣り堀と違って、リリースを推奨している場所が多いです。それには、自然環境に近い状態を作り大きなサイズの魚を放していることもあって、経済的な問題もあると思います。管理釣り場は上手にリリース出来るように指導してくれたり、渓流と違って取り込み易い環境なので練習になると思います。
ただ、その練習になるというのはリリース目的で釣りをするようなものなので、それが問題ではあるんでしょうね。
管理釣り場ではもちろんキープが出来ます。川より釣れるから嬉しくなっちゃうんだけど、食べられるだけを釣って持って帰ればいいのかもしれない。ただ管理釣り場でも、ペアリングに躍起な雄や、惚れ惚れするキレイな鱒が釣れた時はリリースしたくなってしまうのですが。


余談ですが、開高健がテレビの特番に出ていたのをよく見ていました。
現地の優秀なガイドを雇っているのに、あのおじさんったらいつも釣れない。
たまに巨大魚を釣り上げた時に、魚を素手で高く持ち上げ、魚を撫でまわしてから水の中で放し「グッバイ!」と敬礼。見ていて、あ〜あ〜〜、と口を開けてしまうのですが.......あれだけ釣れない時間を見せられた後の息を切らしながらのあの笑顔はどこか憎めない。
トンボに紐付けて散歩したり、カエルに.....なんて子供達も、大人になったら守る側に移動するものなのに、魚釣りではいまだに「あいつを捕まえてやろう」が先に立つ。
僕は魚釣りをしていて思うのですが、水の中は奴らの世界で、その川のなかに何時間もどっぷり浸かって自分で作った毛針を投げ、魚に何度も見破られ、尾びれで叩かれ、どうしても僕にアドバンテージがあるようには思えない。
だけど大きなサイズの魚が釣れた時は、自分でもよく分からないが「本当にありがとうございましたm(_ _)m」と魚に思い、「ざまぁ、みろ」とはこれぽっちも思わない。
開高健の釣れない番組を見ているとそれを感じるから僕はあのおじさんが憎めない。

釣りって残酷な遊びだから僕は興味ない人に魚釣りは薦めません。
ただ、魚釣りをするんだったら、正しいキャッチからリリースまでのプロセスを知り、それ相応の技術を身につけたい思っています。

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参考

英国の鱒釣り/島崎鱒二

天川C&R(キャッチ&リリース) データ編

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Comment(5)

「英国の鱒釣り」は読んでいませんが、C&Rのデータ読みました。ビデオ見ました。かえしのない針のことは知っていますが、リリース用の網があるのは知りませんでした。
 リチャード・ブローティガンの「アメリカの鱒釣り」という小説がありますが、あれは、この本のタイトルをもじったものなんでしょうか。あちらの方は、読みました。タイトルと表紙の写真に惹かれて買ったのでしたが、その後2,3冊ブローティガンの小説を読みました。余談ですが、この本は晶文社から出ていますが、晶文社の本の装丁デザインは9割がた平野甲賀さんが担当しているそうで、これもそうです。内澤さんのあつまりをやったiwatoの持ち主が平野甲賀さんなんです。
 開高の、このテレビ番組は放送されたときに見ました。ぼくは、開高の文章が好きなので、彼の書いた釣りの本は、おそらく全部読んでいると思いますが、無精者ゆえ子供の遊びのような釣りくらいしかしたことがないアームチェアフィッシャマンです。
 リリースしたときの生存率(C&Rってキャッチアンドリリースのことなのか)の表は興味深く読みました。思ったより、生きられるんですね。エサ釣りの場合は、針を飲み込ませたほうが長生きできるなんて想像できませんでした。
 開高の「フィッシュ・オン」に写真が出ているよ鱒はほんとうに美しいですね。もしも、あんなやつを釣ったら、かわいそうというよりはもったいなくて、ぼくは食べたくなくなってしまい水に返してやるでしょう。
 釣りは、なによりもあのかかったときの手応えの快感を求めているのだろうと思います。だからといって、利根川の土手に、ブリほどの大きさのハクレン(食ってもまずいといわれている)が白い腹をだして捨てられていたり、老人と海の世界でもないのに「魚と闘う」なんていうような言葉をきいたり、あるいは、食べる気もまったくないのにクーラーボックスに一杯入れる達成感を求めるやつを見ると、ちょっと違うんじゃないかと思うのです。
が、ふつうに釣りをするのが動物虐待だなんて、ぼくは思うわけではないのです。

OIL:

玉井さん、コメントありがとうございます。
キャッチアンドリリースなんてことをせずに食べるべきで、魚を食べないやつは釣りなんかするな、とコメントにあったのを見て、僕はすっかり誤解したようです。すみません。でも安心しました。
僕の実家の近くは、利根川が流れハクレンの集団ジャンプが見られるます。
土手に釣った魚を捨てるなんて酷い奴らだと思います。
「英国の鱒釣り」はフライフィッシングについて、マニアックな道具の説明もある本です。釣りについて読む部分は少ないのであっという間に読めちゃうと思います。道具の紹介はハーディ、というメーカー。開高健がスコットランドで釣る時にロンドンでフライ道具を買い揃えた店がハーディで、あれはテレビ局からプレゼントされるんだろうか、と思うと羨ましくってしょうがないです。

OIL:

あ、そうだ。書き忘れましたが「アメリカの鱒釣り」僕も読みました。
同じ晶文社の本でフランク・ソーヤーの書いた「イギリスの鱒釣り」という本も持っていますが、中表紙をみたらやはり「ブックデザイン平野甲賀」とありました。「イギリスの鱒釣り」はアイザック・ウォルトンの「釣魚大全」と似た構成ですが「釣魚大全」といえば、開高健も、たぶんこれを意識した「私の釣魚大全」を書いているし、繋がりますね(^^

「アメリカの鱒釣り」は、鱒釣りの話じゃないのかとちょっとがっかりしたけれど、表紙の写真と、中扉に書いてあった魚の絵が気に入ったので、あまり損をした気分にはならなくて、そのあとに同じ著者の「西瓜糖のナントカ・・」だの「ビッグサーのなんとか」なんていう小説も読みました。けっきょくは平野甲賀のデザインがよかったのかもしれません。
 ぼくも、ウォルコットの「釣魚大全」も開高健の「私の釣魚大全」も読みました。
日本の釣りの極致はタナゴ釣りだということが書いてあったのは、あの本ではなかったでしょうか。小さな竿と漆塗りのビクなんていう道具に凝るんだという話と、「RIVER RUNS THROU IT」で餌づりをするやつをコテンパンにいじめるエピソードには、そういうものなのかと感心させられました。

OIL:

「アメリカの鱒釣り」はアウトドアショップに置かれているのを見て、やはり表紙に惹かれて買いました。確かに、鱒釣りは?って思ったのですが、今でも本棚の見える所に置いてあります(^^;
2冊とも釣魚大全を読まれているのは流石!ですね。
僕は開高健の本は「釣魚大全」を含めて3冊くらいしか読んでいません(^^;
これも平野甲賀デザインだった「イギリスの鱒釣り」のフランクソーヤーはイギリスのリバーキーパーで、「ソーヤニンフ」というフライを作ったニンフフィッシングの父とも呼ばれる人です。釣り人というよりも川にいる魚や昆虫、動植物といった、環境を考えながら現場の視点で鋭い観察力を持って書かれているのが読んでいて心地よく感じました。
江戸の頃は座敷の窓際でタナゴ釣り、が流行ったなんて書いてあったのも開高健だったでしょうか.....記憶が曖昧です(^^;

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2009年10月08日 12:07に投稿されたエントリーのページです。

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