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ハーレムでのゴスペルとミサ

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日曜の朝、礼拝でのゴスペルを聞くため7時過ぎに起きて僕らはハーレムに向かった。
ニューヨークの朝は遅くて、7時過ぎでは空はまだ夜のように暗かった。日曜だからビジネスマンの姿を見ることもなく6番街にある最寄りの駅から地下鉄に乗った。
ハーレムにある教会ならどこでも礼拝を見学させてもらえるとは限らない。あらかじめインターネットでうちの厨房長が幾つか教会をピックアップしておいてくれていた。

旅行者向けにゴスペルを聞くための半日ツアーも多くあったけど、何となく申し込む気にならなかった。それだったらエンターテイメント化されたB.B.King経営の店でソウルフード付きのゴスペスブランチにしてもいいか、と思った。でも結局は、この後に行きたい美術館の都合で、朝一番の礼拝の時間に合わせて自力で行こうという事になったんだ。

ハーレム地区の駅に下り、改札を抜け、階段を上って道路に出た。
高層ビルは消え、路上にはゴミが増えている。まだ夜の暗さが残っていて所々に店の灯りが見える。さっきまでと違う、あまり浮かれてちゃいけないような、独特な雰囲気が路上にあった。
僕らは足早に教会に向かった。
ハーレムにある教会の多くはプロテスタントで、なかでもバプテスト教会が多いのだそうだ。僕らが向かったのもバプテスト教会だった。

幸い、迷うことなく教会に着いた。
ただ、まだ時間が早い。入り口で掃き掃除しているシスターがいた。

ゴスペルを見たいのですが、ここで待っていればいいんですか?と聞いたら、中に入って待ちなさい、と言ってくれた。ホッとした。
隣りで聞いていた厨房長から後から聞いたのだけど、あまり「ゴスペルを聞きに来た」という言い方はしない方が良いらしい。ゴスペルは礼拝の一部であってショーじゃない、という感情からエンターテイメント的なものを期待する観光客を嫌がる人達が居るのだそうだ。

教会のドアを開け薄暗い前室に入った。
どこからか焼いたベーコンのような香りと微かなアンモニア臭がした。
続くもう1つのドアを開けた。明るく、天井は高く、正面の壁に大きな十字架がある。長椅子が沢山置かれ、300人は裕に入れそうな広く立派な礼拝堂だ。人はまだ数人しか居ない。
僕らはその最後部の椅子に座って待つ事にした。白い服を羽織った大柄なシスターから「グッドモーニング」と静かに声を掛けられたので、グッドモーニング、と答えた。
写真は撮っちゃいけないよ、と言いながらミサのスケジュール表と牧師の挨拶の書かれた紙を渡された。
徐々に人が集まり始めた。何人かに1人は、僕らに「グッドモーニング」と言って手を差し出したり、「ウェルカム」と言って肩に触れた。
教会には地元の人達が集まって来ているようだ。みんな挨拶を交わしている。ミサが始まるまでに席の半分が埋まり、始まってからも少しずつ増え、長椅子だから空白はあるもののほぼ総ての長椅子が埋まった。

オルガンの音と共に、1人の女性の歌によってミサは始まった。
祭壇前、一段高い説教をする台の後ろに聖歌隊がいる。さっき、僕らの横を通って行った地元の人達だ。確かにパワフルというか、想いが込められているのを感じる。聖歌隊の中でソロを熱唱した女性が両手で涙を拭っていた。ゴスペルは何度かに分かれていてそれぞれ雰囲気の違うものだった。座っていた人達の何人かは立ち上がり、手をクラップしたり、リズムに合わせて手を振ったり、一緒に歌ったりしている。

牧師が台に上り、聖書を読む。
ページが分からない僕らに、シスターが、ココよ、と教えてくれた。
牧師の話が始まった。あちこちから「ジーザス」「サンキューロイ」「エイメン」という言葉が飛び交っており、時折「イエス!」と熱を帯びた言葉が聞こえる。
ビジターは立つように言われ、シスターに促され僕らは立った。どうやらビジターは僕らと1組の白人カップルだけだった。その他はみんな黒人で、みんなが一斉に僕らを見た。
ビジターを歓迎する言葉が掛けられたのだと思う。着席する時、シスターから、良かったわね、という表情で微笑まれた。
牧師の話も次第に熱を帯びてきた。
ハイチ地震のことや、お金の話をしているようだったけど僕の英語力ではその内容はよく分からない。
途中、ゴスペルを挟みながらも牧師の話は続いた。彼の少ししゃがれた声は大きく、熱く、時に怒りを込めながら問いかけるように、皆をどんどん盛り上げて行く。そして笑いも忘れない。話の所々に「ファッキンマネー」という単語が聞こえ「マザーファッカー」と怒鳴ると、皆が「オー、ジーザス」と言いながら笑っている。

献金箱が持った男が回ってきた。僕らは2人で5ドルを入れた。男は笑顔でサンキューと言った。

皆が席を立ち、何人かが祭壇に向かって歩き出した。
シスターが僕の腕を取って、あなた達も来なさい、という。いや、待てよ、どうしよう。
この教会にいる人達は僕らをオープンに受け入れてくれてたと思う。向こうが心を開いているんだから、こっちが閉ざすこともないだろう。シスターに付いて祭壇に向かい、牧師の下の集まりの中に混じった。皆が手を繋ぎ始める。僕の隣の女性は、僕を見て一瞬、驚いたような顔をしてから手を繋ぎ、皆が頭を垂れた。
牧師の言葉が荒々しい掛け声のようになる。何人かがそれに合わせて「イエス!」「ジーザス!」と叫ぶ。周りの人達の体温が上がっているのを感じる。熱気と体臭のような独特な臭いが漂っている。なおも牧師は熱を帯びる。興奮している人も少なくない。泣いている人もいる。僕は少し怖くなり、オレは今何をしているんだ、と自分で自分に問いかける。
緊張なのか興奮なのか分からない。掌に、脇に、変な汗をかいた。

席に戻る。なおも雄弁な演説のような話は続き、牧師の歌が始まった。
彼の歌は迫力があって上手い。
この地区で、皆から慕われる牧師になるには、話と歌が上手くなければいけないのだと思った。

牧師が台から下がると、空気が変わり、何人かが教会の外に出始めた。
区切りが良さそうなので、僕らも一緒に外に出ることにした。
シスターに「いい経験になりました。ありがとう」と言い、シスターは微笑み頷きながら「ハブアナイスデー」と手を振った。

外は明るくなっていたけど、今にも雨が降りそうだ。

頭がボォーっとする。
さっき経験したことを頭のなかで直ぐには整理出来そうにない。
もの凄い力に触れたことに違いないけど、これを感動と言うんだろうか。

その昔、アフリカから奴隷としてアメリカに連れて来られた彼らの先祖は、自分達の言語と宗教を奪われた。苦しみに救いを与えるのが福音(ゴスペル)であり、彼らは個人的に改宗し、アフリカ人特有のリズムと躍動感を持って、これを賛美するようになったのがゴスペルなのだ、という事をWikipediaで読んだ。

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来る時に使った路線とは違う地下鉄に乗るため、駅までしばらく歩いた。
H鋼を使った十字架を掲げたり、それぞれに個性のある教会がハーレムには点在していた。

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Comment(2)

*あい*:

まとめ読みしましたー(汗
むちゃ濃いー旅行ですよね。
karakaraさんのお好きな美術館とか、
食事もびっくり!
あっ、ボリュームね(笑
貝が大好物なのでじゅるる・・って感じでー。

karakaraさんすごい!
会話するほど英語は分からないじゃないですか。
のに公共交通機関使ってらしたり、
レストランや美術館もー。

私ひとりで行く勇気はないなぁ。
もちろん主人がいてもね(笑

*あい*さん、こんなダラダラとした長文まで読んで下さってありがとうございますm(_ _)m
イタリアやフランスの言葉に比べれば英語のほうが学校で習った分、まー、何とかなるだろー、ぐらいに思って飛び込んでます(^_^;
そういえば、ニューヨークの交通機関は地下鉄もタクシーも、使いやすかったなぁ。

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2010年02月10日 23:40に投稿されたエントリーのページです。

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