ヴィットーリア教会でベルニーニの「聖テレジアの法悦」を見た翌日、ボルゲーゼ美術館のベルニーニのコレクションへ。
ボルゲーゼ美術館は完全予約制なので日本からインターネット予約してから行きました。
ボルゲーゼ美術館の公式ホームページからONLINE BOOKINGをクリック。
リンク先のチケット販売サイトのカレンダーから予定日を選び、朝9時から2時間おきにスタート時間を選択、大人はFull Priceで手数料2ユーロ込みの11ユーロ、チケットを郵送してもらう場合はそれにプラス送料ですが、プリントアウトした予約メールを持って美術館地下のBoxOfficeでの受け取りにすれば無料、発券手数料が4ユーロ、で、大人2人で26ユーロでした。
朝一番の9時からを予約。
そしてちょっと早く着いてしまった。
1月末の朝、少し寒いですけど他にも待ってる人たちがいますねー。
正面にある階段を登ったところが入り口、その階段下にあるドアがボックスオフィスへの入り口です。まだ閉まってます。
ひなたに移動して、ひなたぼっこしながら時間つぶし。
開館時間まえにはボックスオフィスのドアが開き、予約券とチケットを引き換えます。
大きな荷物やコートも預けます。
インターネットの情報では館内撮影禁止だったのですが、この時は撮影オッケーでした。
カメラ預けなくてよかったー。
9時前になったら人が集まってきました。
ワクワクするなぁー。
手持ち無沙汰で待ち時間に玄関前の天井のフレスコも一枚。
入る前からすごいね。
美術館内はなかりの密度で作品がありますが、今回はベルニーニを中心にメモ。
ベルニーニの「ダヴィデ」です。
カーテンの隙間から朝陽が射してます。
今回、イタリア滞在中に3つの有名な彫刻作品の「ダヴィデ」を見ることができました。
1つめがこのローマのボルゲーゼ美術館のベルニーニのダヴィデ、2つめはフィレンツェのアカデミア美術館のミケランジェロのダヴィデ、3つめはフィレンツェのバルジェロ美術館のドナテッロのダヴィデ。2週間ちょっとの間にこの3つを見比べることができたのはいい経験でした。
ベルニーニのダヴィデは3つのうちもっとも躍動感があります。
まさに石を投じようと体を捻ったこの姿勢の絶妙なバランスと、視線の先のゴリアテへの角度からどのくらいの巨人なのかを想像させ、また全身の引き締まった筋肉も投石直前の躍動マックスの瞬間を感じさせます。
ゴリアテを倒す前の姿のミケランジェロ、ゴリアテを倒した後のドナテッロに比べればもっとも躍動的なのは当然ですが、この瞬間を選んだという点に、ベルニーニが純粋な肉体の表現をしようとした作品という印象を受けました。
どうでもいい話かもしれませんが、少年ダヴィデを美少年に表現する芸術家が多いなか、彼のはおっさんのように見えるのと、これは本人がモデルとなっているそうですが、ベルニーニってこんなに細マッチョだったのか、と、独り言。
ベルニーニの代表作の1つ「アポロとダフネ」です。
これは美しいですね。
部屋に入った瞬間、静止したままの神話の中の世界に入り込んだような錯覚を覚えました。
ストーリーをザックリと話しますと、
キューピットであるエロースが弓矢で遊んでいたところ、それを見た優等生的なアポロが「そんなので遊んじゃ危ないじゃないか」と、注意します。
言われたエロースは「ちぇ、なんだよ、あいつ、偉そうに」と、アポロ向かって恋に落ちる金の矢を放ち、近くにいたダフネに恋を拒む鉛の矢を放ちました。
金の矢を打たれたアポロはダフネに恋をし、アポロに恋心を抱かれたダフネはアポロを拒みます。
アポロに追いかけられどこまでも逃げるダフネ。
ダフネは父親が神となっている川まで逃げ、父親にアポロに捕まるくらいなら自分の姿を変えてほしいとお願いし、父は彼女の願いを聞いて娘を月桂樹に変えてしまいます。アポロはダフネに追いつきましたが、彼女に触れた時にはすでに体は月桂樹へと変わりはじめていていました。
悲しみに打ちひしがれながらアポロは月桂樹で冠を作り、永遠に身につけたという話です。
ちなみに、触らぬキューピットにたたりなし、という話ではありません。
このあたりのダフネの足の指先からは根が伸び、手の指先からは枝が生えて月桂樹に変わっていくあたりの立体表現がスゴイです。
月桂樹の葉も一枚一枚彫られていて、複雑な構成、これは本当に一枚の大理石から削り出されたんだろうか、と感心させられる技術ですよね。
そして、さっき見たダヴィデとは全く違う、若いアポロとダフネの柔らかな曲線。
もう一つ、ベルニーニの代表作の1つ「プロセルピナの略奪」です。
嫌がる春の農耕の女神プロセルピナが、冥界にいる地下の神プルートに連れ去られるシーン。
ローマ神話でいうプルートはギリシャ神話でいうところのハデス、ゼウスとポセイドンの兄です。ちなみにプロセルピナはユピテルとケレースの娘、ギリシャ神話でいうところのゼウスとデーメーテールの娘ですから、プルートは弟の娘を奪って奥さんにしたわけですね。もうゴチャゴチャですね。
もう悲劇はお腹いっぱい、かもしれませんがザックリ話しますと、
妖精たちと花を摘んでいたプロセルピナに一目惚れしたプルートが泣きながら嫌がる彼女をつれてっちゃった、という話です。
思ったよりも手短かだったので、ついでにその後の話もしますと、
母のケレースはユピテルに「ちょっと、あんた、娘を取り返してちょうだいよ」と、お願いしたところ、プルートとの話で冥界で何も食べなきゃいいよ、ということになったんですが、お腹すいたプロセルピナはザクロを何粒が食べちゃいました。
冥界で何か食べちゃったら冥界に属すっていうのが神々のルールだそうで、それでもユピテルは、そこを何とか、という話になって、一年のうち食べたザクロの粒の数の月だけ冥界(地下)にいて、それ以外の月数は地上に帰っていいいよ、ということになったそうです。
そしてプロセルピナが戻ってくるのが春、地上に花が咲き始める季節となり春と農耕の女神となってるんですね。食べたザクロの数だけ冬がある。
このあたりの表現はやっぱりやばいですね。
この指の沈み方は、もはや大理石でなく柔肌にしか見えません。
高い技術と共に、とてもエロチックであり、やはりベルニーニは変態だったか、と思うわけです。
この角度はもう変態としか思えません、泣きながら嫌がる彼女を抱きあげながら微笑みを浮かべているじゃありませんか。
いや待てよ、この作品を部屋において毎日見ているボルゲーゼ卿のほうが変態なのか。
ま、いっか。
疑いの目はとりあえず置いといて。
この体の捻じれの入った複雑で大きな動き、筋肉、そして柔らかな肌との対比。
ベルニーニの技術はすごいですね。
やっぱりこの角度よりも、この作品は真正面から見るのがベストアングルだな。
ベルニーニではありませんが「眠るへルマフロディトス」です。
ルーブル美術館にあるへルマフロディトスのマットレスを作ったのはベルニーニで、作らせたのはボルゲーゼ卿でしたね。そしてあれはボルゲーゼ卿がフランスに寄贈したものだそうです。彼の奥さんはナポレオンの妹でしたから、仕方なく贈り物をすることもあれば、自分のコレクション肥やすために手を貸してもらうこともあったのでしょう。
これもベルニーニの「アンキセスとアスカニウス」です。
たしかボルゲーゼ卿から最初に注文を受けたのがこれだったような。
書き疲れてきたのでちょっと流します(笑
カラヴァジオの「ダヴィデとゴリアテ」です。
カラヴァッジオ多いです。
カラヴァッジオの「果物籠をもつ少年」、果実の写実的な表現と少年のとろりとした眼差しと紅潮した頬。
倒錯してますな。
写真はこんなですが、実物はなんとも言えぬ雰囲気と奥行きがありました。
入り口正面の衝立の奥にあった作品。
何分かおきに高速メリーゴーランドのような回転と点滅する光によってホログラム動画のようなアニメーションが見られる作品。
iPhoneで動画撮ってみました。
すごく面白いんだけど、ムチ打ってる......
螺旋階段を上って2階へ。
1階は立体が中心で、2階は絵画です。
ラファエロもあります。
「キリストの降架」です。「一角獣を抱く女性」もここ所有です。
コレッジョの「ダナエ」です。
ダナエの話はヴォットーリア教会のベルニーニの「聖テレジアの法悦」からの妄想で書きましたが、ゼウスが金の雨になってダナエを誘惑しにやってきます。
やっぱり、どれだけダナエを美しく描くか、というところなのでしょう。
絵描きの好みが見られるところですが、時には「私をダナエにして描きなさい」という注文もありそうで怖い。
コレッジョのダナエのなかで、ダナエに掛かっているシーツを剥がそうしているのはエロースです。
レオナルド派の「レダと白鳥」もあります。
レオナルドによる原画はなくなっていて、これは彼の弟子による模写のうちの1つです。
「レダと白鳥」もよく作品の主題になった話です。
ゼウスがここでは白鳥に変身してレダを誘惑しています。
それにしても、ボルゲーゼ卿のコレクションは趣味が一貫してますね。
ベルニーニの自画像です。
そしてベルニーニによるボルゲーゼ卿です。
ひと通り見たので、また一階に戻って時間まで軽く見てから帰ろうかと。
制限時間は2時間、あと少し。
完全予約制で入場制限があるからゆっくり見られましたが、特に1階はみんな最初にみるので最後の頃はとても空いてました。
窓から見える中庭。
やっぱりこれは正面から見る作品ですね。
この部屋は朝一番よりも光の状態がいいみたい。
見納めです。
もしこの時代に生まれてたら、僕のような一般庶民がボルゲーゼ卿の屋敷に入るなんて出来なかったろうな。どちらかといえば、高速回転の立体作品のなかでムチで打たれているのが僕かもしれない。
いやぁ、お腹いっぱい。ごちそうさまでした。
Museo e Galleria Borghese
http://www.galleriaborghese.it/default-en.htm